本好きの下剋上 読後語り【感想&レビュー】
本好きの下剋上 書籍版完結おめでとうございます。
この作品は今まで読んできた様々な物語の中で、最も面白かったといっても過言ではない程の作品でした。
改めてどういう点が面白かったか。どんな所が自分の好みに合ったか。という感想を振り返って記載。
※感想の性質上、ある程度ネタバレを含むため要注意
特徴・見どころ
話の基本構造は、日本で亡くなった主人公が中世ヨーロッパ風の世界で目覚めて……という、いわゆるなろう系の「異世界転生」のストーリー。
ただ、新書で約30冊(文庫換算だと60冊くらいか?)にも渡る長編だけあって、ありふれた作品とは一線を画する面白さが多々ある。
独自の神話大系に基づいた世界観
分かりやすいRPG的な剣と魔法の世界……ではなく、この作品固有の神話が地理・生活・魔法といった要素と綿密に紐づいていて、季節や暦、日々の挨拶に至るまで細部に拘った世界観が見事に描かれている。
特に序盤は神様・魔法といった要素が殆ど関わらず、暮らしづらい中世ヨーロッパ風の狭い街の中での生活や平民と貴族階級との格差社会など、ごく身近な範囲で話が進んでいく。
それが章を追う毎に少しずつ世界の全容や直面する問題が見えてきて、この世界を生きる人々の生活基盤・魔法が根付いた社会構造・人間と神々との関係性など話を進める度に見えている世界観が広がっていく様は読んでいてとても楽しい。
多様なキャラクター
この作品、とにかくキャラクターが多い。半分にしてもそこらの長編小説の登場人物より多いんじゃないかと思うくらい。
けど名前だけ出て全く物語に絡まないキャラクターとかは案外少なく、むしろそういうキャラは名前すら出ないまま進む事もあり、名前が出たキャラは何かしらストーリーの主軸に絡んでくる。
何よりすごいのは、一般的な小説では描かれていないときのキャラクターは止まっている(何をしているかが話の主軸と絡まない)事が多いのに対し、この作品はキャラクターが見えていない部分でも話が動いていて、主人公視点では殆ど語られないまま実は物語の進行に絡んでた……みたいな事がいくつもある。
プロローグやエピローグでサブキャラ視点が書かれたり、専用の短編集なんかもあるけど、そういった話をもっと読みたい!と思うくらい各キャラクターが本当にうまく生きている。
ブレない大目標
この作品が飽きずに読み進められる重要な部分はここだと思う。
全編を通しての目標がほぼブレず、「本を読みたい&作りたい」という点に集約されている。
主人公自身は決して言動や意志が強いタイプではなく身分に振り回されたり考え方の違いに悩んだりすることも多いけど、この大目標だけは曲げずに一貫しているから作品としてダレることがなく、小目標を達成しながらも大目標に向かって止まらずに進み続ける物語になっている。
ストーリー上の障害や展開に対する納得感
物語のタイプとしては「なろう系」ではあれども、順風満帆なノーストレスな作風ではなく主人公は何度も苦境に陥り後悔する展開がある。
そういった展開を見ると「あの時こうしてたら……」「この時もしもこうだったら……」とか考えることがよくあるけど、最終的な結末まで読んでから振り返ると、もしその時々の問題を回避してしまったらこの結末に辿り着かなかった。と思わせる程、ストーリーと結末に納得感がある。
個々の話で見ると失敗だったりや後悔する展開も多いけど、終わってみたらそれら全てが必要な前提だったと繋がっていくのが本当にすごいところ。
それでいてあくまで王道展開&恋愛もの
ある意味自分にとっては一番重要な部分。
ものすごく緻密な世界観で重厚なストーリーを描いた物語はこれまでも世の中にあるだろうけど、あまりに重かったり、話の焦点がズレると自分の好みに合わなくなる。
その点、この作品は上記の通り独自の世界観、多様なキャラクターを描きつつも、ストーリー自体は主人公が自分の力を活かして成り上がる王道展開や、サブキャラクターを含めた恋愛模様なんかが主軸になってるので自分の好みともガッチリと合った。
Web版と書籍版の差
元々この作品はWeb版から読んでて、これまでに5周くらいは読み返してる。
今回書籍版が完結ということで最初から読み返したけど、加筆されているところもあって改めて楽しめた。
特に最終章となる5章は加筆部分が多く、Web版では分からなかった裏側の動きや飛ばされた部分の描写が増えていて、本っ当にありがとうございます。
Web版と比べて異なる部分としては、Web版では基本的に他者視点は章末にまとめられていて時折章中に挟まるのに対し、各巻のプロローグ&エピローグで毎回追加されているので、細かく各サブキャラクターの心情まで深く掘り下げられている点。
ただ逆に、Web版では「他者視点の方が映える」として適宜挟まれていた閑話が巻末に移動していたり、元では書かれていなかった裏側の出来事までが細かに書かれた事で、ライブ感は若干減っていたかとも思う。
総評
総じて、「面白さ」「好み」という両面において、過去に並ぶものの無い最高の作品でした。
最高の物語を届けてくれた作者に、心からの賛辞を。